2013年7月27日土曜日

2013年7月17日関東の界雷 訂正

警報はないのではと思っていました。
警報が発表されたか知りませんが、警報クラスの現象になりました。
天気予報の精度があがっても、警報クラスの現象が予想できないなら本末転倒です。
調べると経験をしたことがないケースでした。
とてもできませんでしたが・・
「資料は全部見ろ」と言われたのを思い出しました。

注意1
温位は空気を1000hPaに断熱圧縮して大気の安定度を推し量ります。
しかし、断熱圧縮するにはエネルギーが必要です。
そのエネルギーは位置エネルギーを使いますので、一般に500850hPaの空気塊を1000hPaまで断熱圧縮しても、高さが異なって比べることができません。
1000hPa基準の温位は物理的に誤りなのです。
本来は、違う高さの空気を同じ高さまで断熱圧縮して比べる必要があります。
500850hPaの空気塊を同じ高さまで断熱圧縮して、1000hPaにこだわるなら1000hPaなるように自由膨張させます。
自由膨張では空気塊の温度は変化しませんから事実上自由膨張させる必要はありません。
私は地上0mまで断熱圧縮した温度を温位と定義して用いています。(気象ではスタティックエナージとか言うようですが・・)
たとえば1000hPa定義で台風の温位エマグラムを作成すると絶対安定になる不具合が生じます。
しかし、地上0m基準で作成すると地上の空気塊は15000m程度まで上昇すると判断でき、現実を説明してくれます。

注意2
地上温位は1000hPa定義の温位より12kほど高くなります。(1000hPa面の高度は100200mの上空にあると言うことです。)
850hPa面が1500mにあるとした場合の誤差は次のとおりです。


850hPaの温位や相当温位の誤差はほとんどありません。
気圧面が1400mにあると海面0m基準の850hPa温位は1k下がることになります。
そもそも、定義の違うものを比較するべきではないのですが・・(偶然、誤差は小さいようです。)
現実に気象庁は1000hPaの温位を採用しています。

 1.実況

繰り返しになるかもしませんが高層実況を確認します。
(1)高層実況
500hPa

秋田で北風です。UCLは動き始めましたがゆっくりで、本州は北から寒気が落ちやすい場が続いたようです。500hPa天気図ではわかりませんが、モデルでは能登半島の西に小さな寒気を表現しています。

北海道の低気圧は西進し、日本海の低圧部は深まりしたが館野は昇温しました。

何とも不思議な界雷です。・・

850hPa

秋田は西風ですね本州上に850hPaの寒気は落ちにくいのですが、なぜか日本海で気圧の谷が深まりました。

北海道の寒気は北西進、日本海中部に低気圧を表現しています。
私は先輩に低気圧の東前面に暖気が、西後面には寒気が流れ込むと発達すると教えられました。
実況からは逆で、低気圧が発達するようにはみえません。・・
9時と21時の偏差を見ますと寒気はほとんど南下していません。


しかし、モデルは850hPa(FXJP854)1721時日本海に低気圧循環(風)を予想していました。(図省略)

(2)温位エマグラム
館野
モデルでは17925hPaの相当温位は最大で350kクラスの相当温位が予想されています。
20137179

340kの空気塊は10000m程度上昇すると考えられます。
10003000m位にちょっと強めの対流抑止層があります。
地上や925hPaの相当温位が340k以上になると10000m上昇すると考えられます。
9時の相当温位は925hPa335k850hPa330kでした。

71721

1000mで飽和相当温位が高くなっていますが、これは日射で気温が上がり1000mまで等温位なったか、暖かい空気が流れ込んできたとためと思います。
館野の温位の最大は299kでしたが東京は302kでした。
地表付近が湿度100%で相当温位が345k以上になると10000m上昇します。
21時の相当温位は925hPa336k850hPa330kでした。

輪島
7179

9時相当温位は925hPa334k850hPa335kでした。
自由対流高度(LFC)は1500m程度、雲頂は10000mを超えそうです。
安定な大気(SINが大きい)に見えますが、地上気温30℃で2000m程度まで等温位になりますので水蒸気の輸送が始まり、熱雷が発生してもおかしくありません。
図の条件付不安定は昔だったら「種まき効果」とか説明されたのかもしれません。
「上層と下層の雲が重なったら雨が降るんだ」みたいな説明だったような気がします。
勿論、降る場合と降らない場合があり、違いがわからないので役に立たない説明(単なる言葉)でした。(言いすぎかな?もっとも、温位エマグラムを書く人はいませんでしたけど・・;)

21

21時の相当温位は925hPa346k850hPa342kでした。

(3)850hPa相当温位予想
850hPaの相当温位予想で暖湿のルートを確認しておきます。


輪島付近は336kぐらいを予想しています。輪島の予想は当たりました。
朝鮮半島付近で暖湿に寒気が突っ込んで前線の活動を活発化させています。
この後、日本海に低気圧性の循環を予想しています。(図省略)
暖湿は日本海から本州に入ったと思います。
暖湿のコースは2本あり、南のコースが関東に流れ込んだようです。

2.実況と500hPa温度850hPa相当温位予想


500hPa動画

朝岐阜県にあった雷雲が南東進して関東は界雷となりました。
179時(00z)に能登半島の西に寒気があって、これが南下して界雷を引き起こしたようです。
館野温度が上がったのは対流による効果もあったと思いますが・・
なにか釈然としません。

850hPa相当温位動画

日本海から入る高相当温位域と日変化が重なって界雷になったように思えます。
00Zは9時、12Zは21時です。間隔は3時間です。 

3.モデルと実況
7179時実況とイニシャル



新潟県の海上のエコーが不気味に思ったのは前に書きました。
モデルから大量の水蒸気が西から供給されやすく、10000m上昇してもおかしくないからです。


図は925hPaの相当温位に850hPaの温度を加えました。
850hPa15℃の飽和相当温位は338k18℃の飽和相当温位は348kです。
925hPaの相当温位は輪島(334k)館野(335k)で35k程度過大に表現しています。
そう言われれば、輪島周辺の相当温位表現は不自然です。
輪島の相当温位が低くなる必然性は無いと思います。
モデルは前イニシャルの修正を試みているのかもしれません。
モデルイニシャルは新潟海上のエコーをよく表現していると思います。

河口湖は気圧918hPa相当温位340k、富士山の気圧650hPa、相当温位及び飽和相当温位は330kでした。
モデルは河口湖で5k程度過大ですが・・多分しかない。
地上データをモデルに取り込んでいるのか知りません(聞いたことがない)が、熱雷の予想は完璧になるように思います。
富士山は館野の観測値と整合しています。
富士山は湿度100%ですから、河口湖との間にかろうじて安定層があり地上空気が根こそぎ上昇している場ではないようです。
12時の富士山の様子です。

はっきりしませんが雲の雲底は5合目くらいのようです。
画像は
富士山ライブカメラ
http://www.city.fuji.shizuoka.jp/livecamera/fujiyama_history.htm?Y=13&MM=07&DD=17&EXEC=%95%5C%8E%A6
 より拝借しました。

たぶん雲底にから山頂付近まで対流抑制層があり、上昇してきた水蒸気が雲底にたまる構造になっていると考えます。
山肌より温度の低い周辺から上昇流が流れ出ているのだと思います。
対流抑止層が降水で冷やされると一気に積乱雲が発達するのかもしれません。


12時、河口湖(標高860m)では乾燥していて上昇流を抑える構造に思えます。

地上付近の高相当温位の空気塊は安定層を突き破れなかったようです。
それでも水蒸気は輸送されてきて湿度100%になったと考えます。

下図は各地の地上相当温位です。


富士山と925hPaを比較できませんが、イニシャルの925hPaと地上と比較するとモデルはおおむね適当に思えます。

三重県の9時尾鷲349k、上野347k、四日市349kです。
静岡県の浜松は342k、福井県の敦賀344kでしたのでイニシャルは適当で大きな誤差はないと思います。

850hPaの相当温位

輪島(335k)、館野(330k)ともに少し過大です。
大きな誤差ではなさそうですが、今後誤差がどの程度で出発しているのか注意することにします。

71712時実況と予想 

長野のエコーは岐阜県から流れ込んできたものです。
熱雷的なものではありません。

850hPa18℃の飽和相当温位は350kですから埼玉県秩父あたりと長野南部は不安定と考えられます。
12時、秩父(標高232m)相当温位は348kでした。
12時は乾燥していて対流を抑止していると思います。
15時頃、降水で冷やされましたが湿度100%近くで、相当温位は345k程度です。
21時の館野温位エマグラムから、秩父周辺(広範囲の地表)の空気が10000mまで上昇してもおかしくないとおもいます。
15時から18時頃までが雷雲の最盛期と考えられるかもしれません。
事例を重ねればそのうちわかるでしょう。
モデルの925hPaの相当温位は地上実況と比較すると秩父(12347k)は適当で、飯田(12347k)は過大です。
飯田(標高516m)周辺の空気は、雲底まで等温位となり、ほそぼそと水蒸気を輸送しますが10000m上空を目指すことはなかったようです。
東京、山梨、埼玉の県境(雲取山付近)では熱雷としてエコーが出てきてもよいころです。
レーダーをよく見ると、雲取山付近にエコーが出始めています。

12時、軽井沢の気圧902hPa、相当温位347k、温位307308k
850hPaまで等温位になっているとすると850hPaの温度は2021℃です。
モデルは相当温位と850hPaの温度を過少評価しているかもしれません。
モデルの日変化はおそらく強制的なものでしょうから軽井沢の誤差は仕方ないでしょう。


850hPaの相当温位予想を見ておきましょう。

長野県の高相当温位域は日変化に思えます。
判然としませんが、山陰は日本海の南の高相当温位域の南下と日変化が重なったのかもしれません。
見慣れれば判断できるようになるでしょう。


71715時実況と予想 

エコーは長野県から流れ込んで急発達しました。
925hPa

 長野県18℃エリアが縮小しており、850hPaでも寒気が通過していたのかもしれません。


紀伊半島で925hPaの相当温位の予想が過大なわけではなく、15時三重県上野の相当温位は350kで意外でした。

三重の予想はしたことはなく、「南東風でよく降るだろうなあ」の印象がある程度です。南西風では降りにくいのかもしれません。
尾鷲の傘の骨は太いそうです。
925hPa予想図からすると静岡中部(静岡西部・中部・東部・伊豆って感じで分けて考えてください)から西のエコーが弱い気がします。

850hPa相当温位

私は、暖湿は太平洋側から突っ込んでくるものと決めつけていたのかもしれません。
紀伊半島付近は、925hPaは南西風で暖湿が吹き付けるイメージでした。しかし、風速は弱く、850hPaは山越えで北西風です。
850hPaの相当温位は低く、湿り層の厚みが薄いたのかもしれません。
関東の相当温位は345k以上ですから、流れ込んだ850hPa空気はそのまま10000mを目指して上昇することになりそうです。
水蒸気の供給もとはありましたが山越えですからそれほど長い時間雨を降らせるまでにはならなかったと解釈します。

71718時実況と予想


静岡は別として雷の最盛期は終わっています。
日本海に近い岐阜は熱雷(雷雲は移動弱まるか移動した後で同じ所で再発達)が残っていると思います。


エコーの様子から、名古屋など925hPaの予想は過大だと思い込んでいたのですが、実況の地上相当温位とは整合しいているようです。



850hPa相当温位

静岡の雷雲の解釈ができません。
この後の18日朝、伊豆で警報になりました。1721時イニシャルで余力があれば調べてみたいと思います。


71721時実況と予想
925hPa


三島、網代の相当温位は340k、河口湖は338kで飽和相当温位は343kとなっていました。
駿河湾には常に水蒸気が供給されて発達した雷雲がかかり続けるようです。
グラフにはありませんが、浜松は21350kですから適切な表現だと思います。
浜松では自衛隊の方が高層観測をしています。
何時だったか?昔、モデルがデータを取り逃がしたかでモデルがおお外ししたことがありました。


水蒸気の補給源は海上にあり静岡のライン状のエコーは納得できます。
もっと広範囲にでてもよいと思うのですが、確かに浜松上空で温位の傾きもあり地上から1200mの空気すべて持ち上がっているわけではないのかもしれません。
地表付近は湿度100%ではなく、飽和相当温位が高く自由対流高度が必ず存在し多少対流抑止の効果があるはずです。
想像ですが、1500m位のところで雲が発生し西または北西に雲が流され、地上は西に行くほど相当温位は低くなるが湿度100%にちかくなり、地上相当温位342k、湿度100%の所で地上から1500mの分厚い空気の層が持ち上がっているかもしれません。

3.各地の気圧変化
500hPaの寒気で界雷が起きたとは結論し難いようです。
輪島700hPaの高度変化と富士山の気圧変化をみておきましょう。
700hPa

1821700hPaの高度は3104mですから21時には谷は抜けています。
富士山
17日の気圧変化を富士山と河口湖と比べてみます。


河口湖にはヒートL(熱的低気圧)的な日変化の影響が表れているようです。
はっきりしませんが気圧が下がるタイミング(位相)にずれはないようです。

参考までに館野の観測値を示しておきます。

7179時館野
500hPa 温度-9.5℃、高さ5830m、飽和相当温位331k
700hPa 温度6.4℃、高さ3150m、飽和相当温位334k
850hPa 温度15.4℃、高さ1524m、飽和相当温位339k
925hPa 温度17.0℃、高さ800m、相当温位335k 
71721時館野
500hPa 温度-5.9、高さ5820m、飽和相当温位338k
700hPa 温度6.4℃、高さ3126m、飽和相当温位334
850hPa 温度14.8℃、高さ1502m、飽和相当温位337k
925hPa 温度19.6℃、高さ774m、相当温位337k
21時の飽和相当温位の最大値は918hPa344k程度です。

4.201371721時 館野の湿球温度
ちょっと面白いので紹介しておきます。
普通のエマグラムで使うテクニックなのですが、9時と21時を重ねて表示して、どこの面で寒気や暖気が入っているか調べることがあります。
温位エマグラムでもやってみます。
エマグラムでは縦軸が気圧なのですが、温位エマグラムでは高さになります。

1000m以下は流れ込んだのか、日射によるものかわかりませんが、昇温しています。
10003000mの温度はわずかですが下がっています。
4000m以上は昇温しています。はっきりした理由はわかりませんが、主に対流で暖まったと考えてもよいと思います。
興味深いのは4000m付近です。
湿度100%程度で温位もかわらない。
偶然でこうした事になった?
21時の温位エマグラムと湿球温度を見ます。

6000m以上の相当温位は大体340kで一定です。
対流によって340kの空気塊が運ばれたと考えます。
興味深いのが42005200mで何かが空気を冷やしています。
湿球温度は4200mでマイナス1℃、5200mマイナス4℃で傾きが緩やかになっています。
1000mで3℃の違いですから湿球温度は一定とみなしてよいと思います。
想像ですが、この間はヒョウが大気を冷やした、あるいは冷やしていると思います。
4000m以下はヒョウが溶けた雨が上昇流の中で上下し、大気を冷やした結果でだと思います。(ほぼ等相当温位になる。)
こうした、考えは湿球温度が降水粒子の温度であるとの仮定によるものです。
雪雨判別など繰り返せばこの仮説は確かめられます。

*********
仮説ばかりですが・・
予報士さんで、このブログを理解できる人がどのくらいいるのか心配です。
理解できるなら、資料も見ないで「何時、何処で降ってもおかしくない」とか「あと2~3℃気温は上がる」とか言えないはずです。
ユーザーは予報士さんが資料をみて予想している「プロ」だと思っているはずです。
言わせている放送局も・・
気象庁も「ガイダンスに逆らうな」と指導しているかもしれません。
しかし、それではプロはいなくなってしまう。