一番やさしい温位エマグラムの解説

 

一番やさしい温位エマグラムの解説

 

空気はH2Oを含み、地面付近の空気が上昇して、積乱雲を作り、大雨をもたらすことがあります。

こうしたことを予想するには温位エマグラムを使うのが便利です。

しかし、ネットで温位エマグラムを検索しても難しすぎてとても分かりそうもありません。

ここでは出来るだけやさしく解説しますが、温度とエネルギーとの間に温位・相当温位・飽和相当温位と次々とやっかいなものが登場します

空気の比較は同じ気圧で温度が高いか低いかで判断するするのが一般的です

ここでの方法はエネルギーを温度に変換するのですが温位や相当温位を媒介するやり方でかなりややっこしくなります。

しかし、これが一番やさしい温位エマグラムの解説だと思います。

 

0.自由膨張

まず、物理の知識を紹介させてください

シャボン玉のように膨らませるのではなく

気体が勝手に膨張するとき(He風船が上空に昇って膨張するなど)

少なくとも2種類の膨張について知っておく必要があります

ざっくり、

仕事をさせて膨張(例えば、準静的断熱膨張)させる方法

仕事をさせない自由膨張と言う方法があります

 

850hPa500hPa空気を比べるのに

きっかけはともかく、850hPaの空気が膨張して、その仕事(エネルギー)で空気が上昇します

500hPaの高さまで来たら、その空気を500hPaになるように自由膨張させます

こうして、500hPa850hPaの空気が比較できるのです。

奇妙な方法に思われるかもしれませんが、実際の対流も準静的断熱膨張と自由膨張の組み合わせで起こっていると考えられます。

自由膨張と言う考え方が気象ではあまりみかけませんので覚えておいてください。

 

参考:温度は空気粒子の運動エネルギーの平均に比例します。運動エネルギーの平均が変わらないように体積Vの容器から体積2Vの容器に移し変えるのが自由膨張です。2Vに移し替えた空気の温度は変わりませんが圧力は1/2になります。


1.断熱容器チョモランマ(理想気体の性質)

気象では実在空気を乾燥空気(理想気体)として考えていきます

しかし、850hPa500hPa空気をどのように比べるのでしょうか?

850hPaの空気を500hPaまでどのように上昇させるか?

上昇したらどうなるのでしょうか?

気象で扱う一般的な方法は面倒でわかりにくいものです

ここでは乾燥空気をチョモランマ(標高8848m)の数倍の高さがある断熱容器に詰め込むことにしました

この断熱容器をチョモランマと名付けます

 


 まず、850hPaと500hPaの空気を比べるには、850hPaの空気を500hPaまで持ち上げます

方法は、チョモランマの乾燥空気を850hPaで実在空気と同じ温度になるようにセットします

そして実在空気をチョモランマの気圧や気温と同じなるようにして持ち上げるのです

実在空気を乾燥空気とみなすわけですね


でもチョモランマの気圧や気温はどうなっているのでしょう。

実は乾燥空気(理想気体)って便利なのです。

チョモランマの乾燥空気には3つの性質があります。

 

いきなり数式で申し訳ないですが・・;

チョモランマではこの3つの関係が同時に成り立っています

ここでは(2)(3)を覚える必要はありません。


 ****************

おせっかいですが

チョモランマの乾燥空気

で(1)(3)から(2)を求めています

(1)もとは乾燥断熱源率の式

(2)温位を定義するもと式

(3)静水圧平衡とか測高公式のもと式

****************


(1)のCpTはエンタルピーと呼ばれるエネルギーで、Cpは乾燥空気の定圧比熱です、mghは位置エネルギーです

そして CpT+mgh は

スタティック・エナジー

と呼ばれるようです

 

(CpT+mgh=一定 の誤りです・・;)



こんな簡単な関係がチョモランマの乾燥空気では成り立つのです。

 

気象ではあまりエネルギーは使いませんから単位を温度に変えておきましょう。

難しいことはありません。

スタティック・エナジーをCpで割るだけです

 

θ=T+(mg/Cp)h=一定/CpConst 

 

この温度θを温位と名付けましょう

気象で使う温位と原理的には同じで、ほとんど同じものです

温位θもチョモランマの中ではどこの高さでも同じでかわりません

 

Cpθは元のスタティック・エナジーであることを覚えておいてください

Cpθ = CpT + mgh

温度をスタティック・エナジーから温位を媒介して求めていきます

それでは、この温位やスタティック・エナジー使ってみましょう

 

2.温位θ(スタティック・エナジー)

次のデータは2020070509時福岡で観測された高層データAです

   

高層データ 福岡  

気圧       高度’    温度 湿度

 

 902.3  950        18.2       92

 892.6  1041      18.3       88

 863.7  1323      16.4       84

822.3  1740      12.8       93

 

 

 

   ・・・・・・・・・・・・

 511.9  5620      -5.3        45

 499.6  5810      -6.2        55

 

グラフにすると

A赤文字にしたデータです

せっかく、スタティック・エナジーと温位θを定義しましたから、このデータから

温位θをグラフにしてみましょう

実在空気は上空に行くほど温位が高くなっていることがわかります

さて、AとBの空気を比べてみましょう
Aのスタティック・エナジーが変わらないように膨張するエネルギーをつかってAを持ち上げていきます

AとBの温位をそれぞれθa、θbとするとスタティック・エナジーから

Cpθa = CpTa +mgha
Cpθb = CpTb + mghb

ABの高さhbまで持ち上げたときのTxがスタティック・エナジーと温位からわかりますね

Cpθa = CpTa +mgha = CpTx + mghb

から

Cpθb -Cpθa =CpTb + mghb  ー CpTx  mghb

 θ θa =  Tb  Tx

 となります

 Txに名前がないのは不便ですのでTxを持ち上げ温度と呼びましょう

「温位の差が、Bの温度TbAの持ち上げ温度Txとの差」

となります

 こわそうな先生もいらっしゃいますから・・;

持ち上げ温度Txってなにか覚えてくださいね

 

先生の質問の「(持ち上げ温度)Txって何かしら?」に答えられるようになってください。

・・;

ところで

θ θa =  Tb  Tx が何を意味しているのかわかりますよね


 θ θa>0

なら

Tb  Tx>0

Tb > Tx


TxはAのBまで持ち上げた持ち上げ温度でした

結果

Aをチョモランマの法則でBまで持ち上げるとTxになりBの温度Tbより低く、Aは上昇できないのです


スタティック・エナジーを比べ温位を橋渡しに使いBの温度Aの持ち上げ温度を比較することができるのです。


これからも

θb - θa の計算は少し形を変えて何回でてきます。

わからなくなったら、ここを読み返してください。

 

 

3.相当温位θe

 チョモランマで、850hPaと500hPaの空気を比べられるようになりましたが、これでは対流が起きて積乱雲ができるかどうかなどわかりそうもありません

スタティック・エナジーを少し改良しましょう

水蒸気を水にした時の潜熱を加えることにします

 

潜熱の式は面倒なので省略しますね。

 

スタティック・エナジーを

CpT + mgh + 水蒸気の潜熱 = 一定

と約束します。

水蒸気を含んだ空気がもちあがると

膨張するエネルギーで持ち上がって空気の温度が下がります

温度が下がると湿度が100%となり水蒸気の潜熱も空気を持ち上げることに参加することになります

 


 


水蒸気の潜熱を加えたスタティック・エナジーもCpで割って温度単位にしておきます

水蒸気が加わっていますから温位θではなく

相当温位θeとします

 

θe = T + mgh/Cp +水蒸気の潜熱/Cp

Cpθe =CpT + mgh + 水蒸気の潜熱

Cpθeが水蒸気の潜熱を加えたスタティック・エナジーであることを忘れないでください

 

先ほどの高層データ福岡のスタティック・エナジーを求めて相当温位をグラフにしました

 


相当温位はAのほうがBより高いことがわかります

それではAを膨張で使ったエネルギーでBまで持ちあげた温度Txがわかるでしょうか?

温位と同じように比べてみましょう

AとBの相当温位をそれぞれθea、θebとすると

 

Aのスタティック・エナジーは

Cpθea =CpTa + mgha + 水蒸気の潜熱a = CpTx + mghb + 水蒸気の潜熱(Tx

となります

 TxはAをBまで持ち上げた持ち上げ温度です


Bのスタティック・エナジー

Cpθeb=CpTb mghb 水蒸気の潜熱b

 

これから

θeb θea =  Tb Tx + 水蒸気の潜熱bCp - 水蒸気の潜熱(Tx)/Cp

 

う~~ん

相当温位の差が単純にTbと持ち上げ温度Txの差になりませんでした・;

 水蒸気の潜熱bと水蒸気の潜熱(Tx)は水蒸気の潜熱です

・・?

?? 水蒸気の潜熱(Tx)??

なんでしょうこれ?

 

Aを持ち上げると温度が下がり、すぐに湿度100%に達します

その後水蒸気のエネルギーもつかって上昇します

湿度100%になると水蒸気圧は温度だけで決まるようになります

例えば、湿度100% 0度の水蒸気圧は6.1hPaで 100度では1013.2Paです

湿度100%の水蒸気圧を飽和水蒸気圧といいます

飽和水蒸気圧がわかると水蒸気の潜熱がわかります

 

飽和水蒸気圧や湿度100%については下手な私の説明より

湿度100%とはどういう状態

https://www.kodomonokagaku.com/hatena/?322e4a3dfe00355465a7b86b76b5e7a3

などを参照してください

リンクが切れても適当サイトを探して

飽和水蒸気圧について

確認してくださいね

 

ところで

空気の湿度を100%と仮定した相当温位を飽和相当温位と言います。

 

Aのスタティック・エナジーをもう一度見ましょう

Cpθea =CpTa + mgha + 水蒸気の潜熱a = CpTx + mghb + 水蒸気の潜熱(Tx

 

θeaA相当温位ですけど持ち上げ温度の飽和相当温位でもあるわけです。

どうなるかわかりませんが飽和相当温位を使えば何とかなるかもしれません。

それでは

最後の難関

飽和相当温位へ話を進めましょう

 

4.飽和相当温位(温位エマグラム)

湿度100%と仮定した相当温位を飽和相当温位と呼びます

どうなるかわかりませんが、Bの飽和相当温位とAをもち上げてAの相当温位を比べてみましょう。

さっそくグラフにしてみましょう

グラフは左から温位、相当温位、飽和相当温位です

Aの相当温位=もち上げ高度の飽和相当温位(=Aの相当温位)はBの飽和相当温位より低いようです


さて 

Cpθea =CpTa + mgha + 水蒸気の潜熱a = CpTx + mghb + 水蒸気の潜熱(Tx

でした

 

Bの飽和相当温位を飽和θebとすると

Cp飽和θeb    =CpTb   mghb  + 水蒸気の潜熱(Tb


 

Cp飽和θeb - Cpθea 

= CpTb - Tx) + 水蒸気の潜熱(Tb)- 水蒸気の潜熱(Tx)


ところで湿度100%を理解して頂いたでしょうか?

湿度100%のとき

Tb - Tx >0 のとき

水蒸気の 潜熱

水蒸気の潜熱(Tb)- 水蒸気の潜熱(Tx)>0

となります

逆に

Tb - Tx <0 のとき

水蒸気の 潜熱

水蒸気の潜熱(Tb)- 水蒸気の潜熱(Tx)<0

となります


面倒ですけど・・

Cp飽和θeb - Cpθea >0のとき


Tb - Tx >0 かつ

水蒸気(Tb)- 水蒸気(Tx)>0


 Cp飽和θeb - Cpθea <0のとき


Tb - Tx <0 かつ

水蒸気(Tb)- 水蒸気(Tx)<0


となります


今回のようにAの相当温位が上空のBの飽和相当温位より低いとAの持ち上げ温度はTbより低く、Bの水蒸気圧は決して湿度100%にならないことになります

 反対にAの相当温位が高いとAの持ち上げ温度はTbより高く、水蒸気圧は100%以上に加湿することになります。

 

結論

飽和θeb - θea >0 のとき

温度も水蒸気の潜熱もBのほうが大きいですから大気の状態は安定です

 


飽和θeb - θea <0 のとき

Aが持ち上がってきてBは加湿されて湿度100%になることでしょう。

温度も水蒸気の潜熱もAのほうが大きいですから大気の状態は不安定で、Aは勝手に上昇していきます。

 


飽和相当温位はθe*と書くのが一般的です
・・;「θ、θeでお腹いっぱいなのに、なんだよθe*って」と言われたことがあります


 

5.ショワルターの安定指数との関係

蛇足ですけど

ここはSSI(ショワルターの安定指数)をご存じの方へのものです

結論をもたらした式

Cpθe*b - Cpθea

= CpTb - Tx) + 水蒸気の潜熱(Tb)- 水蒸気の潜熱(Tx)

Tb - Tx

実はSSIの安定指数です

SSITb - Tx


しかも

SSI<0のとき

水蒸気の潜熱(Tb)- 水蒸気潜熱(Tx)<0

SSI>0のとき

水蒸気の潜熱(Tb)- 水蒸気潜熱(Tx)>0

となります


θe*b - θea 

= SSI + {水蒸気の潜熱(Tb)- 水蒸気の潜熱(Tx)}/Cp


上空の飽和θe* - 下層のθe

は過剰になる水蒸気の量も含んでいることなります


6.スタティックエナジーと温位

 次の図は2021年07月26日21時地上天気図

台風8号が東から日本列島に接近しています
この時の館野高層観測(速報値)でスタティックエナジー(左)と気象の温位(右)による温位エマグラムを比べてみます


2021年07月26日21時 館野高層観測(速報値)
スタティックエナジーでは中下層に345k程度の暖湿が入ると際限なく上昇することが分かります。一方、気象の温位では350K以上でないと上昇しません
気象の温位で温位エマグラムを作るとスタティックエナジーよりやや安定な大気であると判定してしまいます
原因は気象の温位はすべて理想気体であると仮定して計算している所にあります
理想気体は実在空気より高度が高くなってしまうのですの、その実在空気と理想気体の高度差による位置エネルギー分が気象の温位にはプラスされてしまいます。


温位エマグラムは正直難しいと思います
こうしたときは大先生に頼ればよさそうです

数式だけですみません・・;が
小倉義光先生の「一般気象学」P53の(3.34)に温位の定義式があります

θ=T(P/P)^(R/C)     (3.34)

Pは一般に1000hPaで(R/C)は(R/C=0.286です。
この式は乾燥空気で理想気体あることが前提になっています

「一般気象学」でも(3.33)でスタティックエナジーが一定であることを述べています

=C+gz          (3.33)

解説するのは至難の業なのですけど(私だけ・・?)(3.34)と(3.33)は同じ内容です

理想気体(乾燥空気)のスタティック・エナジーは一定ですが
実在空気のスタティックエナジーは一定ではありません
実際の1000hPaと850hPa間の高度差は
理想気体と仮定した空気の高度差と当然ちがいます









 

 


 





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