2020年1月18日土曜日

湿球温度

湿球温度 ―雨雪判別―


当然予想精度は悪く、5センチ程度の積雪で交通機関がストップする地方では大問題でした。
雨雪判別は湿球温度を用いるのが自然で、予報精度も上がります。

1.湿球温度
まず、具体的にどのようなものかイメージしてもらいます。
これは、各地の気象台が正しく蒸気圧を計っているのかを確かめる温度計です。
こうしたシンプルな温度計のほうが正確に計れるようです。
一方の温度計に濡れた布をまきファンを回して空気を取り込みます。
濡れた温度計を湿球温度計と呼びます。
濡れた布は周辺の空気より蒸気圧が高く蒸発します。
蒸発すると温度が下がり、蒸気圧が下がります。
やがて定常状態(常に新鮮な空気と入れ替えていますから平衡状態ではありませんが近似的に平衡状態になっているかもしれません)となりす。
湿球温度計は周辺の空気とエネルギーのやり取りをし、定常状態では湿球温度計近傍と環境の空気が持つ1モル当たりのエネルギーは同じになるだろうと思われます。

上空から降る雨粒や雪粒は常に新しい空気にさらされますので、湿球温度計の感部と同じであることがわかります。
 
2.温位エマグラムと湿球温度
雪雨判別の前に、温位エマグラムと湿球温度の利用方について紹介します。
温位と乾燥断熱減率 それと 温位エマグラム」の「6温位エマグラム」で参考にと温位エマグラムを紹介しましたが、一番左のグラフが湿球温度です。




館 野     2006年07月21日21時 観測

上のグラフは2006年7月21日21時に舘野で観測されたデータから作成したものです。
700~1500m程度(着色部分)まで16℃と湿球温度が一定になっています。
1000~1500mは相当温位≒飽和相当温位ですから相対湿度はほぼ100%となります。
雲のある相と考えてよいでしょう。
湿度100%では「湿球温度」=「露点温度」=「気温」ですから1000~1500mはほぼ等湿球温度だと読み取れます。
16℃の雨が等温度にしていると判断できます。
雲は1500mの下層雲です。
上空に暖かい空気(高相当温位)が乗り上げる温暖前線的な構造により作られていることが分かります。
地上付近は16℃の小雨が降り降水により冷やされますから、温暖前線的な構造が続きます。
思ったより長時間雨が続き、気温が上がらない結果となります。

3.大雪(?)の事例

さて、2008年02月03日、関東地方は大雪となりました。

次のグラフは前日21時舘野で観測された資料から作成したものです。
温位等はCpT+mgZ=Constとし、地表の高さを0mとして計算したものです。
(普通に使われる温位等を使わなかった理由は「4.相当温位の問題点」を参照して下さい。)


館 野     2008年02月02日21時 観測

湿球温度は地上付近から500m程度までだいたい0℃となっていました
(降水形態が雪になる地上での目安は、湿球温度プラス0.8℃だったと思います。おそらく表面張力の影響を無視した結果だと思います。)

1200から1500mに湿度100%の相(恐らく下層雲が広がっていた)がありますが、地上付近は乾燥しておりまだ降水は始まっていないと考えられます。
この層(湿度100%でマイナス3~4℃)から雪が降ってきても地上付近までの湿球温度は0℃以下ですから雪は解けて雨になることはありません。

整理したグラフが見当たらなかったのでワイオミング大学からの速報値で当日の様子を従来方式で確かめると(改めて私は「なまけもの」なのがわかります)

館 野     2008年2月03日09時 観測


上空には湿った暖気(7000mまでほぼ湿度100%)が入って、降水を地上にもたらしていると思います。
降水の温度は0℃以下なのでしばらく雪は止まないし雨にも変わらないと判断できます。

4.相当温位の問題点
 テーマからはずれますが、大切な事項なので2点ほど説明させて下さい。

1)温位がもつ誤差
温位と乾燥断熱減率 それと 温位エマグラム」の「2.温位」で高さZの空気の温位は

θ1=T(z)(1000/P(Z))(R/Cp)    (4-1)
θ2=T(z)+(mg/Cp)(z-z1000)  (4-2)
と2種類の計算方法があることを説明しました。

ここに、z1000は1000hPa面の地上から高さです。

θ1とθ2はともに高さZの空気を、その位置エネルギーを使って1000hPaまで準静的に断熱圧縮した値です。

これは、大気が静水圧平衡に達した時の議論であることに注意してください。

実際の空気は上空に行くほど温位が高くなっています。

(4-2)を使うとわかりますが、500や850hPaの気圧面毎にz1000が異なってしまいます。

 実際は上空の空気ほど、z1000は地下にもぐりこむことになります。
 こうした誤差は、当然、相当温位にも残ってしまいます。

 明らかに、地表面の高さを0メートルとして議論するべきです。

 従来方式の(4-1)では300hPaのような上空でこの誤差が大きくなります。


 はじめから誤差を含みますので予想は当たらないことになります。
 これは、「上空の大気の流れの予想が悪い」ことになりますから、長期予報の精度が悪いことを意味します。
 結果、長期予想は統計的な手法に頼ることになります。
 



小雨の中キノコの行進です。(LUMIX DMC-FX35で撮りました、)冬の写真が撮りたいが・・・寒いのも・・


4.湿球温度と相当温位
「2.温位エマグラムと湿球温度」で湿度100%では「湿球温度」=「露点温度」=「気温」と、常識を頼りに書きました。
上の図は湿球温度計の感部付近のイメージ図です。
湿球温度計は絶えず新鮮な空気に入れ替えていますから平衡状態にはなりません。

しかし、環境の空気と感部近傍の空気の持つ「1モル当たりのエネルギー」=「比エネルギー」が同じとなる定常状態になります。
相当温位の式(4-3)の両変にCpをかけると

Cp×θe+mgz1000=CpT(Z)+mgZ+(E(Z)/P(Z))×L   (4-4)

で右辺は気圧P(Z)のエンタルピーと位置エネルギーと潜熱です。
環境の空気が持つ比エネルギーと見なせます。
これが湿球温度計近傍の空気の持つ比エネルギーが同じとなります。

E(Z)は高さZの蒸気圧ですが、湿球温度計の高さは同じですので少し見方をかえます。
EはE(Td)と露点温度の関数とみましょう。
Zを残したいならTd(Z)とすればよいのです。
結果、2つの比エネルギーは

CpT+mgZ+(E(Td)/P)×L=CpTw+mgZ+(E(Tw)/P)×L (4-5)

となります。

湿球温度は飽和相当温位とは逆に、相当温位を変えずに湿度100%を仮定したときの温度(=露点温度)となります。

図で整理すると

となります。

気象関係者は温位、相当温位、飽和相当温位、湿球温度の関係をエネルギーという観点から整理しておくことをお勧めします。

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